さて、こうして無事に完成した展望台は、設計士さんをはじめ大工さんたちのお力無しにはなし得ることができませんでした。

今回お力添えをいただいた皆さまは、なんと群馬から駆けつけてお越しいただいておりました。
わざわざ約7時間強の道のりのなか、工事期間中は幾度も往来をしていただきながら工事を進めていただきました。

そもそも、建設する場所が山の上であったり、舟の形であったり・・すべてが異例すぎる工事内容に、こちらのこだわりも多々ありましたので、大変ご苦労をおかけしたと思います。
こうして無事に完成への道筋ができたのも、大工さんのお力なしにはえられませんでした。本当にありがとうございました。
|| 我々もできることを
そのなかで、今回のこの建設工事では、我々斎庭もできることをさせていただいておりました。大きくは「なぐり加工」と「塗装」になります。
|| 魂をこめ
今回、設計士さんから床板をはじめ、舟の側面の板材に「なぐり加工」をしてみては、というご提案をいただきました。

「なぐり加工」とは、板材の表面に凹凸をつけることによって独特の削り痕(あと)を残す表面加工技術になります。
なぐり加工の起源は諸説ありますが、そのなかでも山から木材を運搬する際、虫に食われないように皮やシラタ(樹皮に近い部分で腐りやすく、虫がつきやすい)を削った加工から考えられたという説が有力です。あくまで下処理が目的であったなぐり加工ですが、千利休が意匠材として茶室の表舞台に取り入れたことで可能性が広がり、さまざまな柄が考案されるようになりました。現在では住まいのなかに木の趣きをあたえる技術として、そのデザイン性が重視され用いられています。
そんななぐり加工は基本的に職人による手作業で行われています。釿(ちょうな)と呼ばれる工具を使って、なぐりの起源に近い形で丸太の表皮やシラタを削る(山なぐり)、角材や板材に製材してから表面を加工する(化粧なぐり)の2種類があります。
そんな伝統的ななぐり加工も、近年は技術を持った職人が減少しつつあります。また、機械加工でなぐりができるようになったことから、今では機械を使っているメーカーも少なくないようです。
設計士さんの案・想いとしては、この加工を斎庭の面々でこの加工に一手間を込めていただけるとよりこの舟に想い・魂をいれることができる、ということと、下記のようなお話もいただきました。
今回の展望台「舟」は古墳時代から弥生時代の埴輪に見られる準構造船にインスピレーションをもらっていますが、正式に坪ノ内内を渡っていた船が、準構造船と同様の形である根拠は見つかりませんでした。
下手に準構造船に形を近づけすぎてしてしまうと「史実と異なる」などの異論を生みかねないため、あくまでインスピレーションをもらって前面の堅板だけ利用し、あとのデザインはシンプルな船形状にしています。
ただそこに手刻みのナグリ加工をすることで、新時代と、旧時代を併せた美しく手仕事感が残る心地よさを宿らせたいと思っています。
このような背景もあると知れると、やらざるをえないですね!
ということで、早速我々も見様見真似で「なぐり加工」を行いました。

まずは、設計士さんのお見本から。
従来は「釿(ちょうな)」という大工道具で一刀ずつ削っていくそうですが、大工さんたちもなかなか難易度が高い作業と、力をいれて手前に削っていくので、危険性も伴う作業とのこと。
今回は設計士さんにならい、グラインダーをつかって加工をしていきました。

これがなかなか難儀を強いられる作業でした。
グラインダーでひのき材の表面に力をおしつけようとも、強い跳ね返りもあるので、しっかりと固定しなければいけないのですが、一方で、しっかりと凹凸もつけつつも、浅すぎるとあまり加工の表情がでないので、この力加減も難しく、なかなか根気がいる作業でした。
大工さんたちも試しに・・・と行っていただきましたが、各々「難しい・・・」と口にしつつも、こつをつかまれるとやはりはやいもので、そつなくされていました。
そして、斎庭代表の井頭も挑戦です。
一見、単純な動きなのですが、なかなかの労力です。

しかし、こうしてできたなぐり加工は、模様のひとつひとつが異なって躍動的なリズム感を生み出します。

床板から側面など表にみえる部分に使うため、約280本近くの檜材を加工することに。作業日数は数日にも及びました。
魂はさることながら、汗と努力の結晶だといっても過言ではないこの「なぐり加工」は、ぜひ実際に展望台にお越しいただいた際にご覧いただけると大変うれしいです!

|| この景観に溶け込む

そして、もう一つ行ったのが「塗装」になります。
塗装する理由は、防水・防腐などを防ぐためになります。
現代は科学塗料などもあり、実に様々な塗料を選ぶことができるようになりました。この塗料もどのようなものにするか、内部でも議論を重ねましたが、木材の劣化を抑制し、木を長持ちさせるため、また、なるべく自然のものがよいということで塗料は「柿渋」をつかうことにしました。
柿渋塗料は平安時代から伝わる、天然成分でできた塗料で、
渋柿を青いうちに収穫し、搾汁したものを発酵・熟成させたものをいいます。柿渋塗料耐久性が高いそうで、全国の国宝・重文にも使われており、あの「東大寺」でも使用されているそうです。

そして、我々としてこだわったもののひとつに「色」があります。
驚いたことに、今回利用させていただいた柿渋塗料のお店では、茶系でもいくつかバリエーションがあったり、また藍色があったりと色を選べる楽しさもありました。
ウォルナットだけだとやや明るすぎ、柿色だと少し重めの印象があったり・・・色のサンプルを実際にあれこれとおきながら、色を交ぜることでちょうどよい風合いの色をつくることにしました。
そうと決まれば作業ははやいです!
ただし、なぐり加工をした表面は荒削りであったり、凹凸による表面の面積が増えたこともかさなり、当初の予定よりも多くの作業工数がかかったり、また塗料がかかったりと。
また、代表のこだわりで、舟の側面はこの景観にとけこむように、檜の色そのもののがよいとのことで、柿渋でも「白」があり、それは表面がうっすら白が重なることで檜の本来の色もいかされる塗料を選ぶことにしました。
そのため、この表面がきれいにみえるようにと・・・・少しでも液垂れすると、汚れ・染みのようにみえてしまうので、これまた神経をつかった作業になりました。

細かな部分ではありますが、ぜひお越しいただいた際はこんなところも目にしていただけるとうれしいです◎
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